情景137【お化け屋敷のあと。なにその喋り方】

 居酒屋特有の、店内に漂う油と酒の乾いた匂い。

 冷房を効かせ肌にひんやり触れる空気と、妙につるりと滑る床。

「そういうもんだ、居酒屋は」

 ひとりで勝手に納得して、連れの男友達に「なァ」とゆるい話を振れば、

「いや、知らんけど」

 そっけない。


 店内の呼吸をするだけで塩分を摂取できそうな、鼻をぬるりと通る匂いだって、運ばれてきた豚キムチ炒めの香ばしさがあっという間に吹き飛ばす。匂いが胃まで行き渡った感触だって、ビールの喉越しが洗い流してくれる。

 清らかではないが、なんとも快適なひとときだ。

 連れの方が、

「デートでお化け屋敷か。なかなか勇気あるな」

「割と思ったんだがな、アリだって」

「アリ寄りのグレーだな」

 混ぜんな。

 こいつは呼べばふらりと来た。昔から、こういう時にからかい半分でやってくるふざけた気のいい奴。デートで大失敗したあと居酒屋に繰り出し、ため息まじりに今日の感慨を吐き出していた。

「おかげで玉砕。しんどいねぇ、けんもほろろは」

「なァ。さっきから」

 なんだよ。

「なんで倒置法?」

「はは……」


 ——大人のシブさとか出そうと思って。


「キツさが出てるぞ」

 改めるわ。

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