情景134【朝の支度。土曜日出勤】

 朝。自分が目覚めたことで、静まっていたこの部屋の空気がひそめきだす。

 蛍光灯のスイッチを押せば、パチっと音が鳴った。外の明かりを入れようと、カーテンをシャッと勢いよく開ける。肩や腕に朝陽が乗った。しんとして凝り固まっていた空気が、一気にほぐれて部屋に緩やかな空気の流れを作ってくれる。


 顔を洗い、歯を磨き、着替えを済ませ、半ば機械的に朝の支度をはじめた。

「もはやコレもルーチンワーク……」

 食パンをトースターに突っ込み、厚いハムと玉子を焼き、野菜ジュースを台所にトンと置く。チリチリチリ……と、食パンがトースターの横長の洞穴に隠れたまま唸っていた。そうして支度しつつ、出掛けた先での一日の流れを反芻はんすうする。

「電車は土曜日ダイヤで……」

 あと、まず先方からのメールをチェックして、九時半から打合せ——。

 土曜日のゆるい空気に包まれながら出勤するというのは、なんとも妙な感じだ。

 そんなことを思っていると、食パンが焼けたことを知らせるチンという音が、脳内のタスクがうずまく世界から、朝食を前にしたほっとする光の囲む空間へと自分を連れ帰してくれる。

 焦げ目のついた食パンがこちらをじっと見ている気がした。

 そうだね。まずは食わねば。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る