情景133【光の溜まる場所】

 寺の境内は、外の喧騒から切り離されているかのように静やかで、自分が今ここに立っているということを、問うまでもなく実感させてくれた。砂利や木々の手入れは行き届いていて、夕の気まぐれな風に砂が舞い上げられることもない。

 中へとお邪魔して、しんと静まる床板が艶やかな渡り廊下を歩いた。歩いていると、廊下がたまに「キィ」と鳴く。途中、小さな坪庭を通りがかった。


 それから、やわらかい光の溜まった、控えの間に通される。

 紙障子が、外の光のやわらかい部分だけをこの部屋に落とし込んだかのような、そんな光に包まれる空間だった。


 斜め向かいにひとり、年頃の男の子が座布団に正座している。

 つられて私も正座をすると、こちらを見て会釈し、視線を紙障子の向こう——外にやった。自然、私もそちらに目を向ける。

 それから障子を開いた。……枯山水の中庭が、そっと姿を現す。


 静かだった。


 枯山水の庭を眺め、音もなく漂う水の流れを思う。

 風が立った。松籟しょうらいの鳴く声だけが響き渡る中、私たちの座すこの空間に夕の陽が差し込んできて、風は吹き抜けていく。


 ふと彼と目が合った。小さく、笑う。

 夏を忘れていた。

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