情景131【お化け屋敷デート・後編】
まだ暑さの厳しい中、商業施設を歩いている最中に突き当たったお化け屋敷。かすかな期待と下心を秘めつつ入ったものの、自分の予想はものの見事に外れてしまった。
館内は薄暗く、うなじを氷が舐めるように不気味な曲がひっそりと響く——。
そんな中で自分の腕はもぎ取られそうな勢いで彼女に引っぱられ、背中はどすどすと拳を立てられて、ひたすら前に押し出されていた。
「もうイヤ! 早く行って! もう出る!」
「だから、押すなって!」
「アンタが入りたいって言ったんでしょー!」
「お前な……!」
「私はイヤって言ったのよ!」
と、盛大な後付の批判をぶちまけられた。
「わかったから! わかったから!」
掴まれた腕は青あざと爪の痕がびっしり。良い雰囲気を作れる気配など微塵もなく、自分の見立ての甘さを思い知らされた。
彼女と館に対する申し訳無さいっぱいの気持ちで道中をトボトボと歩く。途中、わきに一台の鏡が置いてあった。お化け屋敷の定番だ。
その鏡に視線を送れば、その瞬間に刺すような効果音が走り、下から青白いライトに照らされる血色の失せた真っ白な女性が着物を纏って現れる。
本来なら悲鳴をあげるところだが——。
鏡越しに、その着物の幽霊役らしきひとと目が合った。
その幽霊——その子は、申し訳無さそうに肩をすくめ、しなやかに首を傾げた。
一方、隣の彼女はカオを上げることすらせず、俺の背中をグイグイ押してくる。
「早く先に行ってよ!」
「……」
「……」
自分と幽霊は、目があったまましばらく無言。
——すみません、幽霊さん方。
今度、ノリの良い野郎と一緒に来ます。
そしてお化け屋敷を出たあと、俺と彼女はほぼ喧嘩に等しい別れ方をしたわけだ。
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