情景130【お化け屋敷デート・前編】

 九月に入ったとはいえ、まだ暑さの厳しい中で外を歩き回るデートは避けたい。それで夕方に地下街と商業施設を駆使して歩く、そんなささやかな時間を作ろうと思っていた。

 ——その中で見かけた一枚のポスター。


 心霊番組すら見かけなくなった今日びに、お化け屋敷?


 企画担当者が夏休みに熱でも出したかと思いながらも、エレベーターから降りてくるカップルたちを見るに、どうやらそのクオリティは穏やかじゃないらしい。それで気がついたらふたり、エレベーターでお化け屋敷のあるフロアまで垂直移動することになった。

 エレベーター内で、階を知らせるボタンからそっと手を離す。ボタンの表面は季節性が乏しいらしく、いつだって変わらずさらりと冷ややかだった。


 さっそく、受付で学生ふたりのチケットを取り、お化け屋敷に突入する。

 無論、多少は下心もあったさ。

 最近なかなかふたりで外出できなかったし。薄暗い場所で距離感を縮めてちょっと頼れるところも見せて、雰囲気もあるし中々イイかなって思った。

 ——が、だ。


 薄暗いフロアの中、彼女の叫び声が他の悲鳴と共鳴しながら耳もとでがなりたててくる。ただ、その悲鳴はとてもかわいいなんて呼べる代物ではなかった。

「イヤーッ、もう早く行って!」

「押すなよ!」

「うるさい! 暗い! もうイヤ!」

「……」

 ……ごめん。

 唐突で叙情もなにもない間の抜けた事態に、己の浅はかさを自戒しつつ、散々なひとときを過ごすことになってしまった。

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