情景128【田舎の夕景】

 田舎の実家に顔を出して、畳に寝転がりひと眠りする。扇風機に煽られる風が髪を撫でていた。うつ伏せになり、微睡むうちにやがて自分の寝息すら聴こえなくなる。


 めざめる瞬間、自分は無意識に感じ取っていたのだろうか。目を覚ますと、空を奥から朱に染めていく太陽が、西から容赦なく自分の顔を覗き込んでいた。


 起き上がってみると、居間の柱の間を吹き抜けて通る縁側の先、掃き出し窓の向こうには慣れ親しみきった光景が広がっている。風が西日を浴びに行くように、外へと吹き抜けていくのを目で追ううちに気づいた。


 ——見渡す限り、田んぼが黄金色に輝いている。


 青々として田んぼを埋め尽くしていたはずの稲は、いつの間にか穂をつけて、西日の吸った風に吹かれながら頭を垂れていた。心地よさげになびいて豊かな陽光の反射する様子が、茜と黄金の粒を散らすさざ波のように思えて、それが夕景に潜む郷愁のありかを教えてくれる。こちらを眩しく照らす陽射しとともに、それとなく一抹の寂寥感を引きつれてきた。

 肌に沁み入るように、兆しを感じる。

 夏が終わるのだと。

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