情景126【空を切る高速船】

 天気は快晴。海は穏やか。

 田舎の端の港から出発した古くさい高速船は、見た目に反してご機嫌なエンジン音を鳴らし、安定した挙動で波を掻き分けながら進んでいく。以前に乗った大型フェリーよりも波しぶきがずっと近く、体感できる船の速さは比べるまでもない。向かってくる夏の風を一身に受け、流れに身を委ねたまま受け流していく。空を切るとは、まさにこのこと。


 簡素な造りの客室に降りればそこは空調が行き届いていて、室内にひんやりとした空気が漂う。そのまま昭和然としたシートに腰掛けた。……なぜそう思ったかって、目の前にかつて灰皿だったであろう鉄の箱が提げてあったから。エアコンから送り出される冷めた空気に、昔のバスやセダンの中のような、鼻につく尖った匂いが混じっていた。


 陽射しに誘われて窓の向こうを見る。白いカモメが数羽、そばに並んで飛んでいた。

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