情景124【青空に浮かぶ月】

 透いて高い青空に白い月が浮かんでいた。


 雲すら大地の熱に音を上げて逃げてしまったんじゃないかって、そう思いたくなるような雲ひとつない暑い日が続いている。炎熱の瀝青アスファルトの上を汗水たらして歩く自分が、なんともおかしくて自虐的な笑みが浮かび上がってきた。

 うざったいほどに眩しい日差しを切ろうと思って目を閉じる。額の汗を拭った。ハンカチを握った指が額を抑え、そのまま顎がくいっと空を向く。


 瞳を開けると、どこまでも青く高い空が目に入った。

 そして、ちょこんと小さく点を落としたように、白い月があった。


 よくよく見ると、見間違うはずもないくらいに、はっきりとそこにある。

 なぜ今まで気づかなかったのだろう。空の青に音もなく薄まっていくような白さで、しかし確かにそれはそこに浮かんでいた。


 眺めていた一瞬だけは、自分がどこに立っていようと関係ない。ただ、それを眺めていればよかった。

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