情景118【迎え火】
冷夏とはなんだったのか。
まとわりつくような暑さに頭を垂れて堪えつつ歩き、アスファルトから湯気が立ち上るのを呆れる思いで眺めていた。
保冷エコバッグの中のアイスが溶けてしまわないかという疑念が頭の片隅に漂う。青空の色が薄まって中空が白っぽく染まりゆく頃のこと——。
ふと、普段は嗅がない匂いを感じ取って、足が止まる。
「なんだろう、この匂い……」
つい、それに反応して鼻が尖った。線香のような……ただそれよりももっと、焼けたという印象自体が鼻について残るような、そんな匂い。それが自分の鼻から喉を通り、体を巡る。
ご近所さんと玄関前すれ違い、無言で頭を下げて通り過ぎたとき、
「オガラ、こんなものかしら」
「ああ。お皿に乗せちまいな。マッチは——」
そんな会話を聞き流した。それからすぐ、さっき漂っていた匂いがまた自分の五感をくすぐりだす。
門口で、焦げつつ煙を立たす麻の枝。
その奥……網戸の向こうで盆提灯がほんのりと明かりを携えてじっと佇んでいる。
ふっと、暑さを忘れる。
そうか、もうそんな時期なのか。
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