情景115【夏の凪】
——あっづい。
玄関を出て、天に向かって、喉の奥からえずくように言葉を吐き出した。きっと今の私のカオは、眉間にシワを寄せているだろう。
外に出た途端にこれだ。「あつい」の「つ」に濁点をつけたくなるくらい暑い。
よりにもよって正午に外出。風はない。空から降りてくる日差しと、アスファルトから立ち上る熱気とが私を二重に包み込む。日陰に入ればまだマシだろうか。しかし、私は駅まで歩かねばならないのだから、その場で凌ぐよりはさっさと駅に入ってしまったほうがいい。
ほんの五分前、自室でソファに腰掛けて本を読みながら、時折窓の向こうにある色鮮やかな夏の様相を、一枚の絵画のように眺めているだけでよかった自分の姿が遠い過去のようだ。
おかげで部屋の行き届いた空調を切るのが惜しくて惜しくて、それだけで五分は時間使ってしまう。それから意を決して外出して、外に出た途端にむわっとにじり寄る盛夏の気配。風が吹くのではなく、空気が漂うと言ったような、そんな感じだった。
しばらく歩き、ビルの日陰の下に入る。
——あ、確かにほんのちょっぴりマシだ。
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