情景113【夕の海でふたり。半端な距離感、無言の背中】
夕焼けどきの海を見に来て、そばにいた彼がひとり波打ち際まで突っ走っていく。
——ひとりで行っちゃうのか。
とか思ってしまい、そこはかとない寂しさを一瞬だけ感じてしまった。自分の指先が勝手にもじもじしだして、交差させたり指の腹が触れあったりする。
そのまましばらく、私は彼の——渚で足元にしぶきを受けながら、夕の空のうつろいゆく色合いを眺める彼の——その背中を見つめていた。
彼と空とのあいだに空間の奥行を感じる。潮の匂いと波の音が私の内側に入ってくる。
そうして見つめていると、いったいなにが面白いのか、今の今までごぼう天うどんで盛り上がっていた連中が意味ありげにこっちを見て笑っていた。
——なによ。ニヤニヤして。
「いやァ、羨ましくてさー」
茶髪の男はシシシと笑う。
「は?」
背の高い軽装の長髪はやれやれと肩をすくめた。
「あなた方、毎度毎度あと一歩のところまで行くのに」
「そのあと一歩がなかなか踏み出せねんだよなァ」
なにソレ。なにが言いたいの。
問い返すと、そいつらはいかにも事情通なツラをして、
「いつまでも、半端な距離感の男女のやり取りを見せられる側の気持ちになれ」
「そろそろ、ただの友達なだけじゃあ、物足りないんじゃないですか」
なんでそんなことを言われないといけないんですか。
そりゃ、私だって——。
……でもさ。
「私、彼からなにも言われてないし」
もう一度彼の方を見ても、相変わらず気持ちよさそうに空を眺めているだけ。
奥の端の方で、海を染める夕の太陽の光がちらつく。私を覗き込んでいるような気がした。
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