情景112【夕の海でふたり。私の背中を押して】

 夕焼けの海を見に来て、中空の青と薄紫と、空の底の方にたまるオレンジとが混じり合う夕の色合いをひとしきり楽しんだ。空と海のはざまから吹き寄る空気を小さく吸って体中に巡らせたところで、仲間のひとりが「ごぼう天うどんを食べに行こう」と言い出す。

「……私も行く」

 ごぼう天うどんに便乗して踵を返したとき、自分の後ろにいた男友達が私のそばを突っ切って海へと走った。

 え、なに?

 声をかける暇もなく、風のように砂浜へと走っていった。陽を浴びて少々黄色く焼いている砂は彼の風に巻き上げられ、煙のように巻かれながら私の足に触れる。

 あいつはあっという間に波打ち際まで寄り、さもずっとそこで佇んでいたかのような雰囲気を纏って、夕陽を眺めていた。

 とても気持ちよさそうに眺めている。……羨ましいくらいに、ひとりで。

「……」


 ——ひとりで行っちゃうのか。


 さっきまで、後ろにいたのに。あっという間に置いていかれたような、そんな気持ちが一瞬だけ、そよぐように漂った。

「行こう」って……それだけ言ってくれれば、一緒に行くのにな。海辺まで。

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