情景111【夕の海でふたり。空と海と砂と匂い】

 みんなと一緒に海まできた。

 車から降りてささやかな林道を渡りきり、砂浜の先を見渡せるところに出たら、そこにあるのは夕焼けに染まった空と海。

 ちょうど今は私の好きな「はざまの時間帯」で、空と海を染める色は昼と夜のあいだを通り過ぎる夕のひとときのなかで音もなく移り変わっていた。


 静かだった。

 波打ち際の音が耳をくすぐる。

 ぱちんと、風がそばで鳴ったような気がした。


 ただ、今日はみんなで一緒にやってきたものだから、いつまでも横並びで静かになんてできるわけもなく、

「ひゃーッ! ゼッケイだねぇ!」

 叫ぶやつはいるし、

「裸足で砂を踏んでみ? キュキュッてめっちゃ音がなるわ。やってみ?」

「やだ」

 はしゃいでるやつもいるし、

「水平線のあたりって、白いでしょ? でも少し左の夕陽の方に視線を移すだけでもう薄いオレンジと白っぽい青が混じっちゃうじゃない。あれが好いと思うんだ。ぶっちゃけ好きかな。あれよくない?」

「知らんけどいいと思う」

 なんか早口で語りだしてるやつもいる。


 みんなマイペースで、それで歩調だけがなんとなく近い。なだらかな坂をゆっくり歩き続けられるような、そんな気安い連中。そいつらがこの砂浜で作ってくれる空気を、海と空が包んでくれていた。


 潮風の匂いが鼻についたとき、誰かが言う。

「おなか空いた。帰りにごぼう天うどん食べたい」

 私も行く。

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