情景110【夕の海でふたり。海を見に来た】
車の自動ドアが開いて、外の空気が飛び込んでくる。潮風の匂いが自分の鼻をかすめた。塩っ辛い海のうえや、日に焼けた磯のうえを吹いてここまでやってきたそれは、木々に囲まれた駐車場で車から降りようとしている自分に、今の居場所を伝えてくれる。
——林道を突っ切った先は、海。
ペラッペラのサンダルで、駐車場のアスファルトを踏んだ。半袖のシャツは若苗のような色で、それから薄手の白いパーカーに袖を通し、ハーフパンツを着ている。一緒に車を降りた他の面々の格好も似たような感じだ。親指の付け根が気になりながらも歩くうちに、すぐサラサラとした砂に足を突っ込む。
「ちょっと海まで寄り道」
一緒にきた彼女が隣で言う。
「見て帰るだけでしょ」
「それがいいんでしょ。ゼッケイってやつ」
「どうかね」
他の連れも、思い思いに何かを言っていた。
そうこうするうちに、足もとからアスファルトが消える。
そして僕らは、林道から出た先で視界一面に広がる青海を見た。
みんな、その瞬間は黙りこくる。
じっと、その先だけを見ていた。
砂浜の淡い黄色と紺碧の海とをさざめきながら区切る渚。さらにその奥には、海と空を横一線に割る境界線がある。その線が一瞬だけじわりと白みを帯びてゆらぐ感触を覚えたとき、西日の赤と橙の交じる陽光が海を照らしはじめた。
瞬く間に西日に染まっていく夕焼けの海を見る。
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