情景107【休みの日にここあを淹れよう】

 休みの日の朝。

 陽光に誘われて目を覚まし、そのまま起き上がって心身を揺り動かす。

 朝の音のない部屋。カーテン越しに存在を主張する、ぬるくてやわらかな光に囲われて、深呼吸をした。スマートスピーカーが私の気配を察したのだろうか。直射日光を避けつつ、無機的に『おはよう』と言っている。豊かで明るいだけの空気が動かない部屋に秒針の音が響いていた。


 ——私にとって、休日の朝ってそんなもの。


 指を組み、両手を天井へと引っ張り、背筋をうんと伸ばす。軽くペキッと鳴った。それで部屋の空気が動き出す。それからベッドを転がり出るのは、意思というよりも習慣なのだろう。習慣的に洗面所へ行き、顔を洗って歯を磨き、なにかを齧る程度の朝食を済ませた。のんびりと軽い曲調の音楽を部屋に流し、止んでいた空気をかき混ぜるように回遊させていく。


 そして、一杯のここあを淹れた。


 ソファに腰掛け、視点はどことなく。

 そっと口をつける。


 ——甘い。


 一日が始まる。

 始まるの前と後。そのはざまに居られるひととき。

 これがたまらない。

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