情景105【夏の音。鳴き声】

 昨日までの雨音が消える。

 そのあとに沸いてきたのはジワリと立ちのぼる湿った熱と、鼓膜を震わせてやまない夏の虫の音だった。これが、どこにいても響かせてきて、この音が耳につき始めると、いよいよ本格的な夏に突入したのだと感じる。

 今日のお昼間は田舎の電車で移動中。停車したときに聴こえてくる音が車輌の音なのか虫が鳴いている音なのかわからなくなってくる。もしかして混ざっている?


 お昼前。今度は地上駅のホームに立ち、晴れ時にわけもなく先頭車両へ向かう。田舎の六両電車なんてお昼時にはガラ空きだ。隅の席に深く腰掛け、誰もいないなと周囲を見渡したとき、ハッとする。

 車輌の中を行き渡る冷風に、外の湿りけが混じる空気。それを渡る夏の音。


 虫の音、鳥の鳴き声。蝉にクツワムシ。——スズメもいるかな。


 半ば眠るようにして聴き入っていた。

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