情景104【夕陽と影】
——もう日が暮れるのか。
高台から街並みを見下ろしている。夕の風を感じて、鼻で深く呼吸して、土と石畳の匂いを胃の底に落とした。街にはその街らしさを醸す独特の匂いがある。それをお腹で味わっていた。
山際の雲間から、西日が音もなく広がりだす。
空は中空の青が頼りなく薄まり、橙の西日が街並みの奥で寝そべるように降り注いだ。それは街の底面で輝きを増す。
だがそれも、すぐに弱まっていくだろう。
今度は地べたの底から暗がりが生えるように上ってきて、影が自分たちの身を覆いはじめた。
街の底で溜まる夕焼けの光が、少しずつ影の暗がりに呑まれていく。その様子を、じっと見つめていた。
隣に立つ彼女が、明度を落とした輪郭の内で笑みをつくっている。
「あっという間に暗くなったね」
——そうだね。
そう言う彼女にも街の影が覆っていた。その影に西日が差す。一瞬だけ影が振り払われ、彼女の瞳に白のハイライトが浮かんだ。
西日に艶めいた彼女の影から、光の粒がこぼれるかのようだった。
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