情景103【後ろの同級生女子】

 よかった。間に合ったみたいだ。

 今朝もどうやら、あの女子ひとと同じ車輌に当たったらしい。


 ——話しかけるのって、アリなんだろうか。

 いやいや、ナシでしょう。


 学校の一斉休校が終わって、また通学の日々が幕を開けた。

 相変わらず電車の中は密で、特に夏は湿っぽかったり汗っぽかったり、部活のバッグが邪魔になっていやしないかとか、とにかく周囲との距離感が気になる。自分は運動部だから、尚更そのあたりが周囲に迷惑をかけていないか常に気がかりだった。

 そんな中での満員電車。結局、密に戻ってしまったな。当の電車の中でそんな考えを巡らせながら、窓の向こうの横に動き続ける景色を眺めていた。……背中の気配を感じ取りながら。


 いつも自分が登校するときに見かける女子あのひと。結構な頻度で、背中合わせに立つことになる朝の車両。偶然か、巡り合わせかとか、知らないけど。

 真面目に通学するもんだな、とは思った。


 ——いっそ話しかけてみるか。


 いや、タイミングとかあるし。

 ヘンなやつとも、思われたくないし。

 自分から話しかけに行くとか、どうなのよ。

 どうやってきっかけを作ればいいのって話。


 ——ただ、もし。

 あの女子ひとと仲良くなれたら。


 そうしてすれ違うだけの朝の登校。

 朝っぱらから立ったまま電車に揺られ、高校まで駅を二、三行き来するだけの通学の日々が戻ってきていた。

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