情景102【後ろの同級生男子】

 今朝もどうにか、あの男子ひとと背中合わせの通学。

 間に合ってよかった……。


 ——でも話しかけるのはムリ。


 通学途中の電車で、背中合わせに立つ同級生の気配を感じ取りながら、視線は前の方へと向ける。背後にいる彼の気配を感じ……いや、ここはむしろ自分から積極的に気配を取りに行っていた。


 ——話しかけてみる?

 いやいや。


 駅のホームで電車に乗る前、それとなく隣でちらりと見た同級生男子の今日の横顔。そこへ私の視線を一瞬、一瞬だけ送ろうとして、もうムリ。私は心臓バクバクです。


 それから同時に電車に乗り、すれ違いざまに立つ位置を調整して、背中合わせ。


 ていうか、そう。すれ違うだけなんですよ、まだ。

 すれ違っているだけなのになんでこんなに胸がぎゅってなるんだろう。我が事ながらメンタルが単純すぎてタメ息が出る。


 でも、もしお話できたら。

 もうちょっとでも仲良くなれたら。

 どうなるんだろう。


 ——もっと素直になりたいなァ。


 だめだこりゃ。

 思考がぐちゃぐちゃになりはじめた気がして、頭を掻いていた。


 勢いで振り返ってみる。ちょうど彼は横を向いていて、横顔にしっかりと開かれたひとつの瞳が強く印象に残った。


 眼力めぢからって、あるよね。

 ひと懐っこそうに滑らかな上まぶたで、瞳の濃い茶の虹彩と黒の瞳孔に触れるハイライトの白がキラっと光っている。

 ……いいな。やっぱり。

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