情景101【空港のカーテンウォール】

 空港の天井はとても高いところにある。天井は、空からの豊かな光をそのまま受け入れて、自分の立つロビーまで光を降ろしてくれていた。出発ロビーの壁際で手すりによりかかり、白くまばゆい天井を見上げながらその有り様を眺める。手持ち無沙汰だった。


 ふと、壁にうっすら反射した自分のカオに気づく。そばに立つ壁は一面ガラス張りで透き通り、外と内を繋ぐことで場に開放感をくれるカーテンウォール。壁に映る半透明な自分が、視線をこちらへと寄越してくる。ガラス張りのカーテンウォールは、半透明な自分の向こうに在る外を、クリアに映しだす映写機だった。


 旅客機が一機、壁の向こうで翼を伸ばし、音を立てながら空を切る。


 キィンと、音を細く遠くまで響かせながら飛んでいく。壁際の手すりに寄り掛かり、その音を聞き入っているだけで、心地よかった。自分はいま、出発ロビーにぽつんとひとり立っている。


 思い立ち、置いてきた彼女に電話をかけた。電話に出た向こうもまた、壁越しの音を聴いているらしく、

『もう空港?』

 アタリ。

『——見送りに行きたかったな』

 帰ってきたら、また。

『うん。行ってらっしゃい』

 通話を切り、手鞄にそっと仕舞った。


 目の前にはまだ、半透明の自分がカーテンウォールに映っている。その奥で一機の旅客機が、ジェットエンジンを吹かして空に飛び立とうとしていた。

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