情景100【晴れていく】
目の前に広がるそれは、時とともに層の厚みを失くしていくように見えた。霧は湖面に触れることなく、その少し上を漫然と漂っている。夜に溶けていた灰の色味が、淡く白っぽいものへと移り変わっていた。
私の肌や唇のあたりに夜明けの冷たく湿った空気が纏わりつく。二の腕をさすり、下唇を一瞬だけ引っ込めて湿っぽさをたしかめた。その間も霧の層は少しずつ薄れていく。
そのうち空が白んできた。空に、淡く色がついていく。
つい顔を上げて空を眺め、空の高いところから中空までの
そこでふと思う。
——この霧の晴れた先に、どんな景色があるのだろう。
振り返れば、遠くでいまにも薄雲に呑まれそうな山々の稜線を望めた。間もなくやってくるであろう日の出に抱く期待感が自分を高揚させてくれる。
太陽が顔を出せば、陽光の筋が漂う霧を一気に振り払ってくれるだろう。晴れた先にある景色が、今は無為に佇む湖面にまた新しい色をつけてくれるはずだ。
やがて光が差し、朝霧は晴れていく。光芒は音を空に置き去りにしたまま私の背中を追い抜いていき、目の前の白んだ霧を切り払う。
今日、そうして眼前が晴れていくのをただ静かに眺めていた。
目の前にはなにがある?
それはなにを見せてくれる?
そのもっと先にあるものだって、見てみたい。
足元に広がる湖面は私の心の写し鏡のように、揺らめきながらも眼前の在り様を写し取ってくれるだろう。
湖に張られた一面の水の鏡が、切り払われた中空の景色を映しだす。
波紋が水鏡を震わせる。反射して映る景色が揺らめいていた。
私はいったいどこに立つのか。
この霧が晴れたら、それがわかる気がする。
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