情景98【そういえば夏だった】

 今年は、いつ夏が来た?

 思えば、まだ一度も花火を見ていない。

「もうすぐ花火大会だよね」なんて言葉を今年は一度も聞かないでいる。もしかしたら、もう聞けないのかもしれないとも思う。


 日が沈んでから外に出てみれば、そこには昼間の熱の余韻のような、そんなぬるい空気が漂っていた。アスファルトが溜め込んでいた熱を吐き出している。そんな夜だった。

 虫の音は聴こえる。風が木々がつけた葉をなびかせる。首元で服の襟が踊る。アスファルトの上は気だるくなるようなぬるい空気だが、夜空にあがれば冷涼とした空気を味わえるだろうか。

 冷涼……かき氷も食べてないな。食べるといえば、祭りの露店なんかもしばらく見てないし、祭り囃子自体を聴いた覚えがない。

 夏、か。

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