情景96【夕陽の切れ目】

 自宅で、パソコンという銀の板のうえで踊るテキストを眺めて二時間ほど。

 鼻のあたまにふれた風の匂い。その筋を目で追ったら、網戸の向こうにある白っぽい晴れ空が目に入った。それから、端末を操作していた手元に視線を戻す。

 コーヒーはいつの間にかカラ。

 どうりで、匂いが切れていたはず。


 キャスターつきの椅子から離れて網戸の前に立つ。外からの匂いが網戸ごしの風に乗って自分をすり抜けた。視線の先は生垣の向こうにあるご近所の屋根。その奥には薄青いオーバーレイに染まる山の稜線があった。

 遠くで夕陽が照る。

 ふと網戸の上の方を見れば、夕の光が橙の四角い陽だまりを作っていた。こちらまで届いた光が、網戸に横一線引いて上側を橙に染めている。

 四角い夕陽は、自分の眉の上辺りで途切れていた。そこに人差し指を伸ばせば、キレイに指の腹だけを明るく照らしてくれる。

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