情景95【雲ってやつは】

 俺が空を自由に飛べる時代はいつ来るんだ?

 それはそれとして、雲が水蒸気のカタマリだなんて、知りたくなかった。


 晴れた日。誰もいない河川敷に腰を下ろした。程よく傾斜がかかっていて、背中を委ねたくなる気持ちが沸き上がる。

 それで青空の下にいる実感に包まれ、一朶いちだの雲と目が合った。

 

 雲ってやつは、あれだ。

 雲というのは——触れて、乗れて、あわよくば食べることもできるんじゃないのか。白い綿菓子が浮かんで漂っているようなもんだって、そう思えなくなってしまったのはいつからだったか。


 いつの間にか、寝そべっていた。

 寝そべって、どこまでも高く在る空を見つめる。

 目に見えない太陽光を真正面から受け止めるように、ぼんやり空と相対する自分がいた。鼻と口で、空気を細く長く吸う。乾いた土と草の匂いが体を通り抜ける。


 空は風がとても強い。雲を掴むことはできない。

 そんなことは棚に上げてしまっていいんだ。


 本当に飛べたとき、そのことを思い出そう。

 それはそれとして、空と雲に思いを馳せてやまない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る