情景94【豪雨の音】

 集中の糸が切れて、ひと息つこうと思った。

 鼻で息を吸って、胃のあたりに空気がたまるのを感じ取る。それから鼻で息を吐いた。スンって音が小さく立つ。


 エアコンの効いた部屋で渇いた空気にずっと包まれていたせいか、自分の体は湿りけに恋していた。濃い灰色の曇が降りてきている空を見ながら窓を開け、あわせてヘッドホンを外す。


 耳に飛び込んできた凄まじい雨音で、自分は一気にこちら側へ引き戻された。


 空一面の雨滴がアスファルトを叩き続ける、そんな間断ない轟音が耳に飛び込んでくる。目の前で降りしきり弾雨の音はズドドドド、と地面を穿つドリルさながらの響きだった。

 網戸越しの匂いを鼻で掴みながら、窓枠にそって触れる。

「止む気配がないな……」

 眉の位置が下がっているのが自分でもわかった。


 霧雨が入ってきたので、そっと窓を閉じる。

 この雨音を聞かなかったことにして、ヘッドホンで耳をふさいでもよかったのだけど、

「なんか、食うもの買いにいこ……」

 冷蔵庫の中が空っぽだったことを、ここで思い出した。

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