情景93【昨夜の雨のあと】

 近くにコインランドリーができた。

 もう日が顔を出しているはずだけど、鈍色に覆う雲に阻まれてどこにいるかはわからない。そんな頃合いに洗濯物を抱えて部屋を出て、エレベーターのくぐもった唸り声を聞きながら階を降る。

 昨夜の雨は長かった。エレベーターの中からずっと遠くの山の方を見れば、朝靄が山の深緑を包み込んでいて、尾根のありかを曖昧にしている。


 一階に到着し、玄関の自動ドアを出てすぐ右隣。外に出ると、ぬるく湿った風が肌に纏わりつく。


 つい、朝靄の流れるアスファルトをじっと見つめていた。

 軒先で湿り気を乗せる道は、昨夜の雨に濡れたまま横たわり、無言で住宅街へと伸びていく。そこをライトの消えたトラックや配達のバイクが通り過ぎていった。


「……」

 はっと思い直す。

 コインランドリーに行くんだった。

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