情景90【男子ってやつか】

 なんで、よりにもよって山の麓に学校を建てたのだろうか。

 おかげで自分たちは、校門が大口を開けて待つまでの坂道を、早朝から必死に自転車で駆け上がる日課を強いられていた。

 自転車通学の女子はさすがに自転車を降りて押し歩く。が、男子は気合で坂道を立ち漕いで登り切る。夏にもそんなことをしていれば、それは汗だってかいてしまうよね。

 校門の前を通りがかった。

 山の上の方から流れ出るのだろう裾野の川は、勢いよく坂を下っている。自分は自転車を押しながらその坂を登っているというのに、羨ましいことこの上ない。


 たまたま駐輪場で一緒になった男子が、自転車に鍵をかけながら言った。

「だって、坂も登れんって思われるのもイヤじゃない?」

 そうかな。

 別に、そんなところは見てないよ。

 ——と、言おうとしたところで声を喉元に引っ込める。

 いや、見かけるけれども、見てると意識するほどは、見ていないのだと思う。

「あと、気合で登った方が楽だし」

 ……男子ってやつか。

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