情景89【カランッて音】

 みんな、夏服を着て学校に登校してくるようになった。

 濃色のブレザーや沈んだ色の学ランを脱ぎ捨て、白く陽光をはじくパリッとした夏の半袖。日本の気候に向いた服。自分を追い越していったあの子も、夏服に変わっていた。


 教室に着いて自分の席に座り鞄を脇に掛ける。隣の席では、夏服になっていたその子が、下敷きをうちわにして仰いでいた。

 この時期の教室は、暑いか蒸すかでいまいち体が重い。午前中は空も青くて雲は真っ白だったが、それをただなんとなく眺めているだけだった。


「おはよう」

「……ッス」

 ……無言で会釈する。

「なに、『ッス』って」

 と呆れ顔。

 ……いや、何って言われても。フイと視線を逸らし、もう一度空を眺める。


 ふと、ゴムパッキンのキュッと鳴る音を聞く。

 そっちを見てみると、隣の子が水筒のキャップをひねり、お茶を飲みはじめた。


 キャップがわりのコップに注がず、そのままくいっと飲んでしまう。喉がお茶を体に通しているのが見て取れた。口とさ骨のあいだで、喉が揺れるように動いている。

 そして飲み終わったときに、それが鳴った。


 ——カランッ、て。


 水筒の中で氷が底に落ちた。

 

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