情景85【本の匂い】

 古びた本の匂いが好きだった。実家の本棚に並ぶそれらを見て思う。

 その本たちは、まだ父に買われたばかりの頃はきっと、父の意欲の表れとして本棚に毅然と並んでいたのだろう。それも次第に読まれなくなり、いつしかすっかりくたびれて、部屋を飾る役割の方が大きくなっていた。


 そうして今もじっと、本たちは家の空気と太陽の光を浴び続けている。

 父の本棚から一冊手に取ると、その匂いを感じ取れた。


 手で触れたあと。

 水滴のあと。

 鉛筆の書き込み。

 差されたまま忘れられた付箋。


 私は、割と好きかな。決してきらいではない。

 ホコリが鼻について、ちょっとムズムズしてしまうけれども。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る