情景82【雪明かり】

 ストーブの上で鍋が湯を沸かし、湯気をあげさせていた。

 私は褞袍どてらを着込んで足は炬燵に突っ込ませ、指は蜜柑とじゃれあっているものだから、その湯気を眺めることしかできない。

 ――網を敷いて、餅でも焼いたらよかったかしら。

 でも、ストーブの上の管理運営はおばあちゃんの管轄だった。私にはせいぜい、「お餅とかどう?」って言うことくらいしか出来ることがない。


 玄関先で何かが落ちたような鈍い音が立った。

 見に行きたくない。

 雪だ。雪に決まっている。

 でも、万が一ひとが倒れていたら?

 半ば義務を履行するように、のっそりと立ち上がった。


 ため息をついて玄関に差し掛かったあたりで、それは姿を見せる。


 ガラス戸の向こうの暗がりに、薄白い光が音もなく横たわっていた。

 光が雪面に散らばり、夜中でもうっすらと明るい。

 雪にうんざりすることはもちろん多々あるが、雪明かりを感じると、ほっとする自分がいた。


 そんな感傷はに置いて淡々と玄関の戸を開ける。

 やっぱり、雪だった。

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