情景79【記憶のうるおい。ラーメンは父の得意技】

 学校の宿題を終える。小学生の堪え性では、これ以上机に向かうのもつらい。

 そんな折、どこかにお菓子でもありはしないかと思いはじめた。

 両親はまだ帰ってこないだろう。そうして台所をあちこち漁るうちに、とんこつの袋麺と目が合った。普段、我が家での出番は土曜日の昼にあるかないかと言ったところ。自分の舌と喉が、お菓子よりも遥かにそれを求めだした。

 対面型の台所で、カウンターの方から親がラーメンを作る様子。それは何度も眺めたことがある。それを思い出して、手順をなぞってみようと思った。


 湯を沸かし、そこに麺のカタマリを落とし、粉末スープをまぶしてまぜる。

 火加減もなにもない。どんぶりの中で麺はだらりと伸びてしまっていた。初めての味で、それでも美味しく平らげてしまった。

 疲れて帰ってきた母にそれを自慢気に伝えたら、料理を覚えたことに喜んではくれたものの、自分が火を使うことをひどく心配された。


 ラーメンに玉子を入れることを覚えたのは、もう数日してからのこと。

 袋麺は母よりも、父の得意技だった。

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