情景66【後ろ髪を引く夢】

 また、あの夢が襲ってきた。

 背後から差し掛かる生ぬるい光。自分の名前を呼ぶ声の方に振り返ると、そこにいたのはかつての想いびとだった。

 振り返れば目が合う。するとそれは唇を動かし、声らしきものを発する。

『ねぇ——』

 まただ。自分の鼓膜を内側から衝くような声。

 そしてそれは自分の名前を呼ぶのだろう。

 でも、そのつづきを聞けることはない。いつも、ここで目が覚める。自分の名前を呼ぶであろう寸前のところで。

「まだ引きずっているのかな」

 それは忘れかけていた頃にやってくる。

 いまだそんな有り様の自分自身に、つい自嘲的な笑みが漏れた。

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