情景65【記憶のうるおい。祖父のこと】
まだ幼かった頃の私が見ていた、在りし日の祖父の記憶。
ある日、祖父は縁側に佇んで、空の奥のさらに奥まで広がっていく夕焼けをぼんやりと眺めていた。
祖母と違って、祖父はどこか近寄りがたい。
私の母をよく呼び捨てで呼んでいたから。
そんな私が後ろから忍び足で近寄ろうとすると、祖父は私に背を向けたまま、
「さっさと来んしゃい」
そう言って、言われるがままにそそくさと寄ったわたしの頭をなでる。固い手だった。その間もただ、遠くの暮れゆく夕焼け空を、じっと見つめていた。
そのときの表情が忘れられない。まるで、そのまま空に吸い込まれ消える薄雲のように、安らいだ儚さだった。
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