情景60【狐の瞳】

 日が少しずつ傾いていく。窓に降りるレースカーテンの、隙間をぬって陽光が差す。光を浴びる木の円テーブルの中心に、しなやかな狐の人形が物言わず優雅に構えていた。狐の瞳は光を浴びて、照り返しが底の見えない眼光となって私にその視線を送ってくる。

 その瞳のきらめきと潤いは、いまこの陽光豊かに浴びるこの瞬間にしか、見られない。


 ——そんなタイミングがあることを知ったのは、果たしていつだったか。


 陽射しと角度によって、古ぼけた年代物の狐の瞳に光を宿す。いつしか、その瞬間を楽しみにしている自分がいた。

 狐の瞳の輝きが、私を捉えて離さない。

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