情景58【ふてぶてしい猫】

 一匹のずんぐりとした黒い猫が、床に敷いたベージュのカーペットに横倒れている。酔払いのようなだらしなさで寝息を立てていた。近くに寄って耳をそばだてると、半ばいびきじみた寝息が耳を突いてくる。

 彼はさらに鼻を軽く鳴らした。……だが、起きたわけではなさそうだ。


 座り込んで胡坐をかき、柔らかな背中を撫でてみる。すると少しだけ体を揺らし、それからすぐに何もなかったかのように動かなくなった。

 目は半開きのまま微動だにもせず、だらしない口から舌が覗ける。

「たいしたやつだね。ホント」

 ぽつりと、呟いてしまった。

 彼は、飼われているという印象を全く与えない。

 そんなふてぶてしさが、かえって好ましい。

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