情景57【足元を横切るそれは】

 窓際に据え置いた座椅子に腰掛ける。そこで陽光に当てられているうちに、体が少しずつ睡眠に向かっていく。そのまま身を委ね、ひと眠りしようと思い、ひっそりと目を閉じた。

 そのとき、なにかが私の側を通り過ぎる。

 弾けるように目を覚ました私は、ゆっくりと見渡して、すぐ足元にいたそれと目が合った。

 一匹の猫。

 毛は真っ白で、所々ごつごつとしていて額は少し黒っぽく煤けている。そのずんぐりした体型は私に満月を連想させた。丸くつぶらな瞳が私を見据えている。

 ただ、その瞳は愛らしいというよりは、どことなく、ふてぶてしい。

 だがそれも悪くない。私には付き合いの長い猫だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る