情景53【野良のピアノ弾きたち】
地上駅の改札を過ぎた先。上部の窓から降り注ぐ陽光が、床で薄黄色の円をつくっていた。そこで、一台のピアノが静かに時を過ごしている。陽だまりに佇んでいるかのようだった。ささやかなミニカードが立てかけてあって、「ご自由にお弾きください」と、いくつかの注意書きと共に書き置かれている。
そこに、ひとりの野良ピアノ弾きが座った。
ピアノの前に腰掛けるひとの、指先の躍動に合わせてピアノの鍵盤が跳ねる。なかでハンマーが弦を叩き、響板が空気を震わせて、音を奏でた。
そのとき、駅の改札は何の前触れもなく、演奏の場になった。
そしてさらにしばらく後には、野良のピアノ弾きは去り、元の雑多な駅の改札に戻る。それまでの折り重なる旋律の響きがウソのようで、やはり、風のように思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます