情景53【野良のピアノ弾きたち】

 地上駅の改札を過ぎた先。上部の窓から降り注ぐ陽光が、床で薄黄色の円をつくっていた。そこで、一台のピアノが静かに時を過ごしている。陽だまりに佇んでいるかのようだった。ささやかなミニカードが立てかけてあって、「ご自由にお弾きください」と、いくつかの注意書きと共に書き置かれている。


 そこに、ひとりの野良ピアノ弾きが座った。

 ピアノの前に腰掛けるひとの、指先の躍動に合わせてピアノの鍵盤が跳ねる。なかでハンマーが弦を叩き、響板が空気を震わせて、音を奏でた。


 そのとき、駅の改札は何の前触れもなく、演奏の場になった。

 そしてさらにしばらく後には、野良のピアノ弾きは去り、元の雑多な駅の改札に戻る。それまでの折り重なる旋律の響きがウソのようで、やはり、風のように思えた。

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