情景52【陽だまりとピアノ】

 駅の広場にピアノ。この場には珍しいものがあるなと、しばらく壁際に佇んで様子を伺った。

 薄く白みを帯びた陽光が、青空から窓硝子越しに差し込んでくる。その陽差しが、ピアノを真ん中に据えたその場をいっそう映えさせた。


 改札前の広場という舞台にすっかり馴染んでしまっているのか。次々と改札を行き交う人々は、いちいちその有り様に目を瞠ることはない。しばらくすると、一人の青年がピアノの椅子に腰掛け、なんの前触れもなく演奏をはじめた。

 日常のようだった。

 ごく自然に。それが当たり前のことのように。駅で友人と会話したり、電光掲示板で時刻表を確認したりするような自然さで、駅でピアノを弾いている。

 ひとり弾き終えては去り、またひとり。

 そこに現れる野良のピアノ弾きは、皆違う姿をしている。しかし、いずれも皆、踊る風のようだった。

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