情景51【降車駅とピアノ】

 何年ぶりだろうか。

 目的の駅で降りて、ホームの階段を上った。ひとの行き交う駅の雑多な賑わいに紛れて通学していた、高校時代にかえったかのような懐かしさを覚える。

 そんななか、階段を上り切り、改札が見えてきたところで、その当時にはなかったものが目に入った。


 ピアノが置いてある。


 それはそこに在るのがまるで当然のことと言わんばかりの物静けさで佇んでいた。駅の張り紙やポスターと同じように。ちょっとした花や、備え付けの繰り越し精算機と同じように。ピアノが駅の日常に在るべき物として添えられていた。窓際で光をたっぷりと浴び、屋根の縁で光が白く跳ねている。

 どこから来たのだろう。そっと指で触れて、あちこちについていた細かいかすり傷に気づいた。

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