情景50【送り雪・後編】

 ——そろそろ、時間かな。

 玄関で扉に手をかけると、奥から犬が寄ってきた。柄にもなくか細く鳴いてくるものだから、頭をいつもより多く撫でてやる。

「またな」

 と言って、外に出た。

 車が一台。父が新幹線の駅まで送ってくれるらしい。

 そのとき、肩に白い粉が乗った。空にも舞っていたそれが、目元を過ぎ去り頬を掠め、手の甲に乗る。

 同じものがいくつも、目の前をちらついていた。

 桜かと思った。

 でも、それは小さく、粉のようで、そっと掠めて冷めた感触を残し、消える。

「――雪」

 三月も終わろうとしていたのに。

 音もなく、桜と雪が織り交ざっていた。


 もう、とっくに過ぎ去ったものと思っていた。

 そんな冬の名残が、家を出立する自分についてきてくれるのか。

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