情景49【送り雪・前編】

 住宅街にせせらぐ川の両端を、石堤がまっすぐ一線で囲んでいた。それに沿うようにして桜並木が植わっている。我が家はその川沿いの一角にあった。

 肌寒さが未だ残る昼日中であっても、つぼみはほころび、そこから薄桃色の花がささやかに咲く。その様子が自室のリビングからも一望できた。


 今日、その家を出立する。


 靴を履き、旅行鞄を両肩に掛け、玄関の扉を開く。桜の花びらが風を受けて泳ぐさまを目の当たりにした。

 隣で父が、

「東京、か」

 と、遠くの山の稜線あたりを見据えながら、言っている。

「遠いんだか、近いんだかな」

 自分に背を向け、車のロックを外しながら、そんなことを呟いていた。

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