情景46【人工の木漏れ灯】

 人工の太陽を見たことがあるか?

 会社の同僚に、そんなことを言い放ったやつがいた。

 あるわけがないと答えれば、そいつは得意げに、

「酔っぱらって深夜の街路を歩いているとな。木漏れ灯を見ることがあるんだ」

 なんてことを言う。

 まだ酔っぱらっているのか、なんて言って笑って流したが、その日の深夜に自分も似た境遇に陥った。


 酒に酔い、深夜の道を力なく歩いていると、猫背で街を漂う自分の上から、白い日差しが降ってくる。日差しは自分の足元で点々と揺らめいていて、見上げた先にあるそれは枝葉が陽光を遮る木漏れ日そのものだった。

 街路樹の風になびく枝葉の奥で、街灯が煌々と明るい。


 なんだ、「木漏れ灯」とはそんなものか。

 と思いながら、笑った。


 深夜に思わぬ木漏れ灯をみたことで、妙な満足感が酔いに混じって沸き始める。

 ——悪くはない。ただ、太陽は言い過ぎではないか。そんなことを思いながら、中空を眺めつつ帰り途をゆく。

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