情景42【オルタンシア】
オルタンシア。
最初、そんな名前で呼ぶものだから、それが何を指すのかわからなかった。長雨が続くなか、室内で外の景色をぼんやりと眺めながら話す。それを指さされて、ようやく理解した。
たまたま敷地内で育てていた花。降りしきる雨のなかもその姿をしかと保ち続ける、芯の強い花。緑葉に囲まれたなかに、ぽつぽつとつけた小さな花の丸い束のような——。
「なんだ。紫陽花のことだったのね」
息と一緒に気の抜けた声が出た。
「花というか、ガクだけどね」
細かい。紫陽花の花にあたる部分はうんと小さいと、そのとき知った。
雨音が耳に馴染む。
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