情景34【紙障子の向こう】
机に向かっていた。
畳の跡が肌につくからと、座布団を尻に敷いて胡坐をかき、集中力を高めて静かに臨戦態勢。万年筆を握っている。四百字詰めの原稿用紙をにらみつけながら、愛用のペンを走らせていた。
しばらく書いているうちに、ブルーブラックのインクが途切れたらしい。ステンレスのペン先が、原稿用紙の繊維をガリッと削る。
それで、ふいに書く手を止めた。
ひと息ついてから、ペン先を紙の上で柔らかく押さえ、インクを先端に溜める。
すると一滴、紙の上に乗った。
陽光の照り返しが、その濃く沈んだインクの粒に艶をつけている。光の源を目で追うと、紙障子の間から青空が覗いていた。
ペン先がインクで溢れるのも知らず、ついそれを眺めてしまう自分がいる。
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