情景29【春のきざし】
車で目的地に向かっている間、同乗者と他愛のない話をしながら外を眺めていた。ひだまりの中を通っていると、並木道で木々が枝に葉をつけていたことに気づく。
目的地の駐車場に着いて、さっそく車を降りようとしてドアを開けたら、風が吹き込んできた。
風の匂いに鼻がくすぐられる。
その風には、木々の匂いが交じっていた。それは、昨日までの風にはなかったもの。春の気配が、風に微かに交じっている。
いつしか、春がすぐそこまできていた。
木々についた枝葉がさわめいている。春の気配に気づいているのは、どうやら私だけではないらしい。
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