情景26【雨音を拾う】

 二月十七日、雨。

 薄鈍びた雲が群れて空に留まり、雨を降らしている。音はなく、霧が漂うような雨だった。

 生垣があって往来の様子は伺い知れないが、その静けさから人気の絶えているであろうことは想像に難くない。雨の匂い漂う無音の空間に浸っていた。


 ……いや。

 音が、あるな。


 畳に横たわっていた自分の、座布団にあててない方の耳をよくそばだてると、かすかに音がしている。しているような気がする。

 しだいに、葉から垂れる雨滴の、石畳を打つ音すら拾えてきた。我ながら器用なものだと思う。

 そうして横になったまま、この長雨の音をどこまで拾えるだろうかと思い始めた。

 聞き耳を立てた。いっそう集中するために目を閉じてみる。


 いつしかその雨の音に聴き入ったまま、寝付いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る