情景25【掃除機】

 しばらく静かな住宅街を歩いていると、懐かしい音を聴いた。

 私が通り過ぎようとしていた、白壁に灰色の屋根をつける二階建ての家。そこから網戸越しに、とある音が鳴っている。それが私の耳をついた。無機質な機械の音で、甲高く「キィィイイン……」と唸る。

 誰かが掃除機をかけているのかな。その音が、私の記憶を揺さぶった。


 それはたいてい、休みの日の午前中だった。十時過ぎまで寝ている私に、母が呆れながら言う。

「掃除機がかけられないでしょ」

 耳をつく掃除機の音が私の起床を促していた。

 もうかけているクセに。

 そうつぶやくと、今度は布団を引っぺがされた。

 ——そんな、かつての記憶。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る