情景17【黒耀・後編】

 影すら生じない闇に沈み、もしや自分が影そのものなのではないかと思えるほどの存在の不確かさに包まれていく中で、くるぶしくらいの深さらしい泉に足を突っ込んだ。

 刺さる水らしきものが重い。

 ずしりと引きずられながら足取りを重ねていくうち、闇の先に一瞬の照り返しを捉えた。暗闇の中に黒光りする何かがある気がする。

 黒く照る光が闇を縁取る。その像は瞳に深緑色の焼けあとを残した。

 光明すら避ける黒々とした闇のなかに、浮揚する水晶のようなきらめきがある。

 手を伸ばせば届くはずだ。


 ならば。

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