情景13【外へ誘う風】

 今日の仕事中はずっと、建物の中に籠もりきりだった。

 室内は白い壁に囲まれていて、窓際はブラインドで閉め切られている。


 先進的な機械に囲まれていて清潔な空気が漂うのはいいけれど、中にいたら外の天気さえもわからなくなるというのが、少し気になる。

 夕方に差し掛かり、室内で作業するみなさんに退出の挨拶を済ませた。そのまま出入り口へ向かう。

 台車に備品や簡単な機材を載せ、手で押しながら刻むように前へ。

 これが倒れたら大惨事だな。

 エレベーターを降りるとすぐにエントランス。出入り口の自動ドアに向かうと、扉はひとりでに私を送り出してくれた。……外の匂い。


 風が出迎える。私の髪を靡かせる。


 日の入りのころに吹き寄せる風に土と金木犀の匂いが乗っていた。

 それが私を外へと誘ってくれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る