1. ノラの家に転がりこむことになった経緯

私の夫は退役軍人だ。

ミリタリーを退役した直後の数ヶ月は、次の職を探しながら、夫の実母マーサの住むアメリカ東海岸にある町に住んでいた。

この実母マーサがこれまた強烈な人で、言い表すならば「保守貧乳系闇属性ネガティブおばちゃん」。


この実母マーサ(旦那をノラに寝取られた)とママ母ノラ(マーサの旦那を寝取った)は、いまだに戦争中である。

しかも恐ろしいことに、この寝取り女と寝取られ女は、二十年近くもの間、お互いに手りゅう弾を投げつけ合いながら、同じ町内の徒歩五分の距離に住んでいたのである。

なぜ引っ越さなかったのか?!

全くもってその精神は理解できないが、まぁ長くなるので、今回はその戦争話は置いておく。


数ヶ月の就職活動が実って、夫はテキサス州A市にある民間企業に再就職することが決まった。

A市には、ノラの亡き母が残したプール付一軒家があり、夫の実父とノラは、半年ほど前からその家に移り住んでいた。


A市に就職先が決まったと知るやいなや、ノラが電話をかけてきて

「ちょっとぉ、聞いたわよ!勤務先A市なんだって?じゃあさ、新居が見つかるまで、うちで生活したらいいわ。部屋も余っているから遠慮なく使って。あ、そういやアンタ、料理できる?料理できる人は大歓迎だから!」

と、ものすごい勢いでまくし立てるので、まぁ料理するのはキライじゃないし、じゃあ次の家を探すまでの間だけお世話になりますか、という話にまとまった。


夫も私も、テキサスに住むのは初めてのことで、右も左も分からなかったし、A市はノラの故郷であるので、色々と教えてもらえたら助かるよなぁ、などと一方的に期待を募らせつつ、ノラから教えられた一軒家の前に到着した。


ほぉ〜、なかなか重厚なレンガ造りの家だ。

ピンポーン。

玄関のチャイムを鳴らす。


「はーい」と玄関ドアを開けてくれたのは、小学生くらいの女の子だった。


はて…誰だろう?

ドアの奥から、にぎやかな声が聞こえてくる。

パーティーでもやっているのか?


一瞬イヤな予感が脳裏をかすめる。


「まぁ、いらっしゃい!さぁ入って、入って!」

ノラが現れて、私たちを家の中へと招き入れた。


家の中に一歩足を踏み入れると、イヤな予感は確信に変わった。

想像をはるかに超える人数の人間がリビングルームのソファに座って、私たちを眺めていた。


「えっと…こちらの皆さまは一体…?」

恐る恐るノラに尋ねる。


「あぁ、こっちは、アタシの長男家族よ。今ね、家を建てていてね、住むところが無いから、うちに住んでいるの。それでね、こっちはアタシの兄の元嫁のカレン。離婚しちゃって住む場所がなくなってしまったから、一時的にうちに住んでいるけど、来週には出て行くから。気にしないでね」

そう言うと、ノラがニコリと微笑んだ。


いや、いや、いや、聞いてない。

こんなの聞いてないぞ!

何この難民キャンプ状態!


長男家族は大人ふたりと子供ふたりの計四人。

ノラの兄の元嫁、一人。

ノラと夫の実父の計二人。

私と夫、そして一歳になる息子の計三人。

合計で十人…。

よく分からない人々とひとつ屋根の下…。


私と夫は突然の事態に顔面蒼白になりながらも、逃げ帰るわけにもいかず、とりあえず

「えーと、あのー、は、はじめまして!」

と挨拶をかわし、こうして波乱万丈な五ヶ月間におよぶ難民キャンプ生活が幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

義母ノラは何故パンティに自分の名前を書いているのか、という話 藤田ふぁあ @Arizona

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ